【日本シリーズ2016】広島東洋カープvs北海道日本ハムファイターズの全6試合を振り返る

2016年日本シリーズ広島東洋カープ対北海道日本ハムファイターズ

2016年の日本シリーズは、北海道日本ハムファイターズが4勝2敗で10年ぶりの日本一に輝いた。

試合 日付 スコア 場所
第1戦 10月22日 ○広島5-1日本ハム● マツダスタジアム
第2戦 10月23日 ○広島5-1日本ハム● マツダスタジアム
第3戦 10月25日 ●広島3-4日本ハム○ 札幌ドーム
第4戦 10月26日 ●広島1-3日本ハム○ 札幌ドーム
第5戦 10月27日 ●広島1-5日本ハム○ 札幌ドーム
第6戦 10月29日 ●広島4-10日本ハム○ マツダスタジアム

出典:試合結果 – NPB

最大11.5ゲーム差を逆転したシーズンの勢いそのままに、日本シリーズでも2連敗からの4連勝と見事な逆転劇を演じてみせた。

日本シリーズMVPは3本塁打7打点と活躍した日本ハムのレアード。そのほか優秀選手にシリーズ3勝0敗のバース、第4戦でサヨナラ満塁本塁打を放った西川、日本一決定の押し出し四球を取った中田など、納得の顔ぶれとなった。

賞名 選手名 所属球団
MVP レアード 日本ハム
優秀選手 バース 日本ハム
西川遥輝 日本ハム
中田翔 日本ハム
敢闘選手 エルドレッド 広島カープ

出典:表彰選手 – NPB

幾度となく盛り上がりを見せた2016年の日本シリーズだが、トータルで見れば間違いなく近年最高の日本シリーズであった。ここでは各試合の注目ポイントを振り返っていきたいと思う。

10月22日 第1戦@マツダ

日本シリーズ第1戦は、好調の広島打線がその威力を発揮して、スコア5-1で完勝した。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
日本ハム 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 10 0
広島 0 1 0 2 0 0 2 0 x 5 7 0
勝:ジョンソン(1勝0敗)
負:大谷翔平(0勝1敗)

注目のジョンソンvs大谷の対決だったが、やはりジョンソンをそう簡単には打てなかったようだ。

打の広島の本領発揮

2回裏の鈴木誠也のホームスチールから始まり、4回裏には松山&エルドレッドのアベックホームランが飛び出すなど、終始広島有利に進んだ試合。

圧巻は7回裏、先頭の田中が二塁打、続く菊池が送りバントを決め、1アウト3塁のチャンスを作ると、3番・丸がきっちりタイムリーを放って追加点をもぎとった。今年の広島を象徴する得点パターンで、もはや様式美と言って良いだろう。

日本ハム先発の大谷は、序盤こそタナキクマル(田中・菊池・丸)を11球で三者凡退に打ち取る投球を見せたが、マツダスタジアム初登板時(2013年6月18日)にホームランを打たれた松山から、またしても手痛い一発を浴びるなど苦い思い出が蘇る登板となってしまった。

日本ハムの敗因は?

第1戦の日本ハムは10安打3四球で1得点と、得点力不足に泣いた形。大きな要因となったのが4番・中田翔の不調だろう。下に示したのが第1戦での中田の成績だが、チャンスの場面をことごとく潰してしまっている。

  1. 三振(1回表:1アウト1・3塁)
  2. 併殺(3回表:1アウト1・2塁)
  3. 三振(6回表:ノーアウト1塁)
  4. 三振(8回表:ノーアウトランナー無)

4番がこれだけ打てなければ拙攻も致し方なしといったところか。逆を言えば、中田に1本でも出ていれば勝敗がどうなっていたかはわからないだろう。

大谷、12年ぶりの偉業達成

試合結果とは関係ないが、大谷翔平が2004年の西武・松坂以来となる「日本シリーズでの投手によるヒット」を記録した。

日本シリーズで投手が打席に立てるのは1~2試合が良いところなので、打率1割にも満たない投手がヒットを打つのは至難の業と言えるだろう。まあ、大谷は3割打者なのだが…。

10月23日 第2戦@マツダ

日本シリーズ第2戦は、前日同様のスコア5-1で広島の勝利となった。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
日本ハム 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 4 1
広島 0 1 0 0 0 4 0 0 x 5 7 1
勝:野村祐輔(1勝0敗)
負:増井浩俊(0勝1敗)

疑惑の判定で荒れた試合は、少し後味の悪い結果となってしまったが、広島がホームできっちり2勝目をあげている。

本塁タッチはセーフかアウトか

野村vs増井の投げ合いとなった第2戦は、同点で迎えた6回裏に試合が大きく動いた。

広島先頭の田中が二塁打を放ち、続く菊池がバントの構えからバスターを敢行。打球が内野を抜けたのを見て、二塁走者の田中は三塁を蹴って一気にホームへ向かったが、レフト西川からの好返球で本塁タッチアウトとなった。

ところがこれを見た広島ベンチから抗議があり、本塁クロスプレーのビデオ判定が実施されることに。結果、判定が覆ってセーフとなり、広島が勝ち越しに成功した。

リプレイ映像を見ると、一塁側からは空タッチのように見えるものの、三塁側からはミットがヘルメットに当たって揺れているように見える。

もちろん、ヘルメットやユニフォームも選手の体の一部であり、タッチしていればアウトである。この微妙な判定を巡ってネットでは論争が巻き起こり、判定に不満を漏らす人も少なくなかった。

この後、判定結果を引きずってか日本ハムは後続を断つことができず、エラーや本塁打も絡んで一挙4失点。完全に試合を決定づけられ、そのまま2敗目を喫した。

10月25日 第3戦@札幌ドーム

日本シリーズ第3戦は、日本ハムが壮絶なシーソーゲームを制し、スコア4-3で一矢報いる形となった。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 R H E
広島 0 2 0 0 0 0 0 0 1 0 3 8 1
日本ハム 1 0 0 0 0 0 0 2 0 1x 4 6 0
勝:バース(1勝0敗)
負:大瀬良大地(0勝1敗)

本試合は広島・黒田の引退試合であったが、故障により6回途中で降板。試合にも負けてしまい、花道を飾ることはできなかった。

エルドレッドの3試合連続ホームラン

日本ハムに先制を許した広島は直後の2回表、ここまで2試合連続ホームランと絶好調の6番エルドレッドが打席に入る。フルカウントまで粘った7球目、外野フライかと思われた打球がライトスタンドに突き刺さり、3試合連続ホームランで広島が逆転した。

日本シリーズにおける3試合連続ホームランは歴代最多タイ記録であり、2003年の阪神・金本以来史上5人目の快挙。この一発でまたも広島に流れが行ってしまうかに見えた。

松山のボーンヘッド

その後、しばらく均衡状態が続いた8回裏、2アウト1・2塁のチャンスで、この日の先制点をあげた日本ハム・中田翔に打席が回る。2ボールからの3球目を打ち、レフト前に落ちるシングルヒットかと思われたが、ここで松山が打球を後ろに逸らしてしまう。

松山のボーンヘッドで、日本ハムは3対2と逆転に成功。不調に苦しんでいた中田だったが、この試合はここまでの全打点をひとりで叩き出し、第1戦の汚名返上を果たした。

大谷のサヨナラタイムリー

9回に同点に追いつかれた日本ハムだったが、この試合最大のドラマは10回裏に待っていた。

2アウトから西川が盗塁を決め、ランナー2塁で迎えるは3番・大谷翔平。一打サヨナラの場面に、観客のボルテージが最高潮に達するなか、大谷が内角の難しい球をライト前に弾き返し、値千金のサヨナラタイムリーを放った。

本人曰く、「フォークボールを待っていたが、追い込まれていたので広く待っていた。」とのことだが、あんな内角低めの球に対応できてしまうのは、やはり天性のものだろう。大谷伝説の1ページを見た気がした。

10月26日 第4戦@札幌ドーム

日本シリーズ第4戦は、スコア3-1で日本ハムが勝利し、2勝2敗の五分に持ち込んだ。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
広島 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 6 1
日本ハム 0 0 0 0 0 1 0 2 x 3 5 1
勝:谷元圭介(1勝0敗)
負:ジャクソン(0勝1敗)
S:宮西尚生(1S)

第3戦の盛り上がりに負けず劣らず、第4戦も最後の一球まで勝負のわからない緊迫した好ゲームとなった。

レア―ドの勝ち越し弾

日本ハムは近藤のエラーで先制を許したものの、中田の一発で同点に追いつくと、8回裏にはレアードの第2号2ランホームランで勝ち越しに成功する。日本ハムの主軸が温まってきたことで、まだまだ展開はわからなくなってきた。

対照的に心配されるのが広島のジャクソン。2夜連続での2失点に、ここまで今村と共に4試合連続登板している疲労が見え始めている。ここで一度休ませられれば良かったのだが、結局6戦すべてに登板することとなる。

9回二死満塁フルカウントの攻防

2点差を追いかける広島は、9回2アウトランナー無しから四球→ヒット→ヒットで満塁のチャンスを迎え、打席には3番・丸。フルカウントまでもつれ込んだ後の6球目、宮西が投じた外角低めのスライダーにバットが空を切り、空振三振でゲームセットとなった。

最後の打席、宮西&大野バッテリーは徹底して外角を攻め続け、最後の1球も満塁フルカウントにも関わらずボールゾーンへのスライダーを投げ切った。さすがの丸でも読み切れなかったのか、上体を完全に崩されての三振で、バッテリーの完全勝利と言えるだろう。

宮西投手の後日談

2017年2月18日放送の『球辞苑』の中で、宮西投手がこのときの配球について言及していたので紹介したい。宮西曰く、最後の決め球はスライダーに決めていたようで、そこから逆算して投球を組み立てていたとのこと。実際の配球は以下の通り。

  1. スライダー ボール
  2. ストレート ストライク
  3. スライダー ボール
  4. スライダー ストライク
  5. スライダー ボール
  6. スライダー ストライク

注目すべきは、5球目までにスライダーを4球投げて3球がボールになっている点。これだけスライダーがストライクに入らないと、満塁フルカウントで最後にスライダーは投げにくい。そう打者に思わせるために、あえてこうした配球にしたようだ。最後もきっちりストライクゾーンからボールゾーンへ逃げるスライダーを投げ切って空振三振。あの土壇場であえてボール球を投げられる度胸は並大抵ではないだろう。最後のガッツポーズにも納得だ。

10月27日 第5戦@札幌ドーム

日本シリーズ第5戦は、日本ハムが劇的なサヨナラ勝ちを収め、ついに日本一へ大手をかけた。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
広島 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 7 0
日本ハム 0 0 0 0 0 0 1 0 4x 5 7 0
勝:バース(2勝0敗)
負:中崎翔太(0勝1敗)

両軍投手の投げ合いで緊迫した接戦となったが、最後に勝負を決めたのは日本ハム・西川遥輝のサヨナラ満塁ホームランであった。

史上2人目のサヨナラ満塁ホームラン

ピンと張っていた緊張の糸が切れたかのように、試合は劇的過ぎる幕切れを迎えた。

9回裏、1-1同点の場面で広島は守護神・中崎を投入。1アウトから田中賢介に対して四球を与えてしまい、後続にきっちり送りバントを決められてイライラしだす中崎。この時点でかなり不穏な空気が漂っていたが、直後の打ち取った当たりが内野安打となり、続く打者には初球デッドボールと完全に自分を見失っていた。

デッドボール直後はあわや乱闘になりかけ、試合が一時中断したのだが、ここで中崎が冷静になれればあるいは結果は変わっていたかもしれない。2アウト満塁で迎えるは2番・西川遥輝。ここまで打率.125と低迷していた西川だったが、1ボールからの2球目、高めに浮いたストレートを振り抜いて、ライトスタンドへサヨナラ満塁ホームランを叩き込んだ。

日本シリーズでのサヨナラ満塁ホームランは、1992年ヤクルトの杉浦享以来となる史上2人目の快挙。広島としては日本ハムを完全に勢いづけてしまう痛い敗戦となった。

10月29日 第6戦@マツダ

日本シリーズ第6戦は、前夜の勢いそのままに日本ハムが一挙6得点の猛攻を見せ、日本一の座を掴み取った。

球団 1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
日本ハム 1 0 0 3 0 0 0 6 0 10 12 2
広島 0 2 0 0 1 1 0 0 0 4 7 1
勝:バース(3勝0敗)
負:ジャクソン(0勝2敗)

点の取り合いとなった最終戦だったが、8回にまさかの展開が待ち受けていた…。

大谷翔平の先発回避

第6戦は野村vs大谷の対決になると思われていたが、日本ハムの先発はまさかの増井。

第5戦後のインタビューで栗山監督は、「少なくとも7戦まではいけるという権利を得たので、慌てずじっくりと最後の最後にきっちり勝ちきれるように」と発言したことから、「2戦使って1勝できれば良い」という考えだったのだろう。大谷を万全の状態で使うために、中7日での最終戦登板を託したものと思われる。

この選択でもう一つ日本ハムに有利なのが、勝ちそうな場合に「抑え大谷」が使えるという点だ。マーティン無き日本ハムにとっては、抑え大谷は非常に強力な切り札となるだろう。

興行的な側面から見ても、「勝てそうなら抑え大谷、負けそうなら最終戦で先発大谷」と、どちらに転んでも最後は大谷で締めくくれるおいしい展開となる。何とも栗山監督らしい戦略と言える。

両投手の立ち上がり

広島先発の野村は、初回にいきなりノーアウト1・3塁のピンチを背負うと、3番・岡の内野安打であっさりと先制を許してしまう。前日の勢いそのままに初回大量失点で終戦かと思われたが、ここから4番・中田を併殺打、5番・近藤をピッチャーゴロに打ち取り、初回の大ピンチを何とか最少失点で抑えた。

対する日本ハム先発の増井も、2回にノーアウト2・3塁のピンチを迎える。ただ先程の野村と違い、ここから7番・8番・9番と下位に回る打順。7番・小窪を三振に取り、残るは未だノーヒット(15打数0安打)の8番・石原と投手の野村のみ。何とか抑えきれるかと思われたが、まさかの暴投&エラーで2点を献上してしまう。

何とも差の出る両先発の立ち上がりとなった。

6回の攻防

その後、西川のタイムリースリーベースで逆転に成功した日本ハムだったが、6回表にも広島・へーゲンズの3四球で2アウト満塁のチャンスを迎える。ここでヘーゲンズのギアが入ったのか、3番・岡に対してボール球一切なしの全球ストライク勝負。3球ファールが続いた6球目で空振三振に切って取り、ヘーゲンズが雄叫びをあげた。

その直後の6回裏、今度はピンチを切り抜けた広島が、松山のヒット、鈴木誠也の四球、小窪の送りバントで1アウト2・3塁のチャンスを作ると、代打・下水流の内野安打で同点。外野へ抜けていれば逆転という当たりであったが、ショート中島のファインプレーに阻まれ、同点止まりとなってしまった。ここで逆転できていれば、また違った結末が待っていたかもしれない。

ジャクソン崩壊で一挙6失点

同点で迎えた8回表、ここまで6連投のジャクソンが2アウトから3連打を浴びてしまい、いきなり満塁のピンチを背負う。続く4番・中田に1球もストライクを投げられず、押し出し四球で勝ち越しを許すと、6番・レアードには試合を決定づける満塁ホームランを浴びてしまった。

まさかまさかの2アウトから6失点。開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。

ジャクソンはこの日本シリーズで10失点。完全に戦犯となってしまったが、今村とともに6試合連続登板で、酷使による影響は否定できない。広島は他にも大瀬良、福井、一岡、九里などが控えていたが、最後まで今村、ジャクソン、中崎の勝ちパターンに拘ったことが裏目に出てしまった。

シーズン通してのジャクソンの活躍を考えれば、この日本シリーズのことだけで彼を叩くことはできないだろう。第4戦でジャクソンの連投を不安視する声も多かったが、それが最悪の形となってしまったことが悔やまれる。

日本ハムが10年ぶりの日本一

結局8回表の6点が決め手となり、4勝2敗で北海道日本ハムファイターズが10年ぶりの日本一に輝いた。

過去10年、日本シリーズでパ・リーグが負けたのは3回のみ(いずれも日本ハム)であったが、その呪縛を解き放つ2006年以来の日本一となった。

思えばシーズン途中まで、ソフトバンク独走で誰もがソフトバンクの優勝だと思っていたところから、最大11.5ゲーム差(6月24日時点)をひっくり返してのシーズン優勝。そして、この日本シリーズでも先に2勝されて追いつめられたところからの4連勝で日本一。

まさに、北海道日本ハムファイターズというチームの、逆境に立たされた時の底力を見せつけられたシーズンとなった。