巨人軍の4番を張る阿部慎之助選手。
怪我の影響で今は一塁に退き、小林誠司に正捕手の座を譲り渡してはいるが、間違いなく巨人軍歴代最高の捕手と言えるだろう。
その打撃力は捕手としては規格外であり、2割代前半で8番を打つことの多い捕手が、3割30本で4番を打っているのだから、打線の厚みは尋常ではない。
阿部が正捕手を務めた2001年~2014年の14年間で、Aクラス12回、優勝7回、日本一3回という成績は凄まじく、2016年時点での通算成績は打率.286、本塁打373、打点1136、OPS.875という驚異の値を叩き出している。
そんな阿部慎之助の現役生活の中で、全盛期と呼べる最高の打撃成績を残した年度はいつなのか?今回はそれを考えてみたい。(※今回は打撃指標のみを用いて論じる)
全盛期の候補は?
阿部慎之助の年度別打撃成績は以下の通り。(※OPS=出塁率+長打率)
年度 | 打率 | 本塁打 | 打点 | OPS |
---|---|---|---|---|
2001 | .225 | 13 | 44 | .666 |
2002 | .298 | 18 | 73 | .864 |
2003 | .303 | 15 | 51 | .892 |
2004 | .301 | 33 | 78 | 1.016 |
2005 | .300 | 26 | 86 | .863 |
2006 | .294 | 10 | 56 | .776 |
2007 | .275 | 33 | 101 | .868 |
2008 | .271 | 24 | 67 | .852 |
2009 | .293 | 32 | 76 | .943 |
2010 | .281 | 44 | 92 | .976 |
2011 | .292 | 20 | 61 | .863 |
2012 | .340 | 27 | 104 | .994 |
2013 | .296 | 32 | 91 | .991 |
2014 | .248 | 19 | 57 | .765 |
2015 | .242 | 15 | 47 | .784 |
2016 | .310 | 12 | 52 | .850 |
この中で、候補となるのは各指標で自己最高(赤太字)を記録した年度であろう。
- 2004年:打率.301 本塁打33 打点78 OPS1.016(最高OPS)
- 2010年:打率.281 本塁打44 打点92 OPS.976(最多本塁打)
- 2012年:打率.340 本塁打27 打点104 OPS.994(最高打率・最多打点)
2004年は4月にハイパーモードが覚醒した年。4月は打率.372、本塁打16、打点35、OPS1.408と鬼人のごとき打撃を見せ、当時の月間本塁打数のプロ野球タイ記録をマークしている。
2010年は捕手のシーズン本塁打記録としては、野村(52本)、田淵(45本)に次ぐ3番目の記録を打ち立てた。キャリアの中でも本塁打数が群を抜いている。
2012年は捕手としては史上初となる打率.340台を記録し、首位打者と打点王の二冠達成。本塁打数も1位のバレンティンに4本差に迫るなど、三冠王に最も近い年であった。
どの年も成績だけみると甲乙つけがたく、好みが別れるところであろう。こんなに打てるキャッチャーは、どの球団も喉から手が出るほど欲しかったに違いない。
ボールの影響、傑出度を考えると
打撃指標だけを見ると、2004年、2010年、2012年はどれも甲乙つけがたい成績ではあるが、実はこの3つの年では使用されたボールの性質に大きな差がある。
各年度のシーズン本塁打数は以下の通り。
- 2004年:セ1074 パ920 合計1994
- 2010年:セ*863 パ742 合計1605
- 2012年:セ*454 パ427 合計*881
2004年は俗にいう「スーパーラビットボール」が使用された年で、直近20年間で最も本塁打が多かった年である。逆に2012年はあの悪名高い「違反球」が使用された年で、直近20年間で最も本塁打が少なかった年である。
この時点で2004年<2010年<2012年の図式が成り立ちそうではあるが、もう少し詳しく比較するため、各年度の平均打率&OPSから阿部の傑出度を測ってみた。
年度 | 平均打率 | 平均OPS | 打率傑出度 | OPS傑出度 |
---|---|---|---|---|
2004 | .275 | .772 | .296 | .972 |
2010 | .267 | .740 | .284 | .976 |
2012 | .244 | .648 | .376 | 1.142 |
※打率傑出度:打率/平均打率×0.270
※OPS傑出度:出塁率/平均出塁率×0.330+長打率/平均長打率×0.410
上表を見ると2012年の傑出度が群を抜いているのがわかる。この年、違反球の影響で球界全体が極度の打低だったにも関わらず、阿部は他年度と比べても遜色の無い成績を残したのだから当然と言えば当然だ。このことから、阿部慎之助の全盛期は2012年ということで間違いないだろう。
実を言うと、こんな検証をする前から試合での印象で2012年が一番なのは明らかであったが、一応数字上でも証明された形だ。
2012年の阿部はチートと呼ぶにふさわしく、「必ず打つ」と錯覚させるほどの凄まじい威圧感を放っていた。下の画像は2012年阿部のゾーン別打率になるが、もうどこに投げて良いのかわからない状態だ。4番がこれだけ打てて、しかも正捕手なのだから、日本一に輝いたのも納得だろう。