沢村賞の選考基準(条件)と重視される評価ポイントとは?

沢村賞の選考基準と評価ポイントとは?

「沢村賞」は先発投手にとっての最高栄誉賞と言われ、7つの選考基準をもとに原則として12球団から1名のみが選ばれる。

沢村賞の選考基準

  • 登板数-25試合以上
  • 完投数-10試合以上
  • 勝利数-15勝以上
  • 勝 率-6割以上
  • 投球回-200イニング以上
  • 奪三振-150個以上
  • 防御率-2.50以下

受賞にあたっては全ての基準を満たす必要は無く、より重視される項目とそうでない項目が存在する。ここでは歴代受賞者の成績をもとに、沢村賞の選考で特に重視される評価ポイントを掘り下げていきたい。

選考基準の重要度

まずは歴代の沢村賞受賞者70名のうち、各項目を達成している人数を見ていきたい。

歴代の沢村賞受賞者の基準達成内訳

参考:沢村栄治賞 – Wikipedia

意外にも全ての項目において、いずれかの年で未達成の受賞者がおり、どの項目が未達成であっても一応は沢村賞の可能性があると言える。

とはいえ各項目の達成人数には大きな差があり、登板数と勝利数が69/70人なのに対し、防御率は48/70人と全基準の中でワーストの達成率となっている。

勝利数の重要性

登板数と勝利数については、1988年の大野豊(24登板、14完投、13勝、勝率.650、185回、183三振、防御率1.70)を除いて全ての投手が達成していることから、選考にあたって重要視されているのは間違いないだろう。

15勝を達成する先発投手であれば、大抵は25登板も達成するので、実際にカギを握っているのは勝利数だと言える。勝利数が重要と言われる所以もここにあり、恐らく15勝を満たさなければ沢村賞選考の土俵にも上がれないだろう。

完投数と投球回の形骸化

完投数と投球回については、直近5年の沢村賞投手の成績を見ると形骸化が顕著である。(※表中の太字はリーグ1位、赤背景は選考基準を満たしていることを表す。)

年度 選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
沢村賞 25 10 15 .600 200 150 2.50
2018 菅野智之 28 10 15 .652 202 200 2.14
2017 菅野智之 25 6 17 .773 187.1 171 1.59
2016 ジョンソン 26 3 15 .682 180.1 141 2.15
2015 前田健太 29 5 15 .652 206.1 175 2.09
2014 金子千尋 26 4 16 .762 191 199 1.98

出典:沢村栄治賞 – Wikipedia

完投数・投球回ともに、基準を満たしていない年の方が多く、もはやリーグ屈指の成績であれば問題無いと言えるだろう。

近年は中6日のローテーションが確立され、先発・中継ぎ・抑えといった投手の分業制も進んでいることから、完投数・投球回の基準が時代に合わなくなってきている。

これを受けて、沢村賞式QS率(7回以上を自責点3以内で抑えた率)を選考の際の参考数値として扱うなど、新たな試みも導入されはじめている。

過去最低は4項目未達成

過去の沢村賞受賞者の中で、最も未達成項目が多かったのは1978年の松岡弘(43登板、11完投、16勝、勝率.593、199.1回、119三振、防御率3.75)で、勝率・投球回・奪三振・防御率の4項目が基準未達成となっている。またこれに次ぐ3項目未達成が7名いる。

選考基準が形骸化してきているとはいえ、流石に全て未達成での受賞は難しく、15勝を達成したうえで未達成項目を3つ以内に抑えれば、選考ラインに乗ってくるといった感じだろうか。

候補が複数いる時の評価ポイント

ここからは、近年で沢村賞争いを演じた投手の成績を紹介していきたい。

選考にあたっては様々な要因が絡むため、候補が複数いる場合に「この項目で勝っているから決まり」とは一概に言えないので、実例の中から何か感じ取ってもらえればと思う。

(※表中の太字はリーグ1位、赤背景は選考基準を満たしていることを表す。)

2017年 防御率優位?

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★菅野智之 25 6 17 .773 187.1 171 1.59
菊池雄星 26 6 16 .727 187.2 217 1.97

菅野(巨人)と菊池(西武)の争い。共に3項目で相手に勝っており、タイトルも2つと接戦だったが、勝利数と防御率で勝る菅野が初受賞となった。選考委員会のコメントでは、菅野の防御率の良さ、および勝利数と防御率が両リーグ通じてトップであったことに触れている。(菊池は両リーグ通じてトップの基準なし)

2016年 勝利数届かず…

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★ジョンソン 26 3 15 .682 180.1 141 2.15
菅野智之 26 5 9 .600 183.1 189 2.01

ジョンソン(広島)と菅野(巨人)の争い。達成項目はともに4つで、完投・投球回・奪三振・防御率では菅野が勝っていたが、勝利数がわずか9勝と基準に遠く及ばず。受賞者無しとも噂されたが、広島優勝の立役者であるジョンソンが初受賞となった。

2013年 全項目達成も…

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★田中将大 28 8 24 1.000 212 183 1.27
金子千尋 29 10 15 .652 223.1 200 2.01

田中(楽天)と金子(オリックス)の争い。金子は沢村賞の選考基準を全て満たしていたが、24勝0敗という圧倒的な成績を残した田中が2度目の受賞となった。勝利数、勝率、防御率で金子を大きく上回ったことと、エースとして球団初の優勝&日本一に貢献したことが加味されたと思われる。

2012年 勝利数届かず…

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★摂津正 27 3 17 .773 193.1 153 1.91
前田健太 29 6 14 .667 206.1 171 1.53

摂津(福岡)と前田(広島)の争い。達成項目はともに5つで、勝利数と勝率以外は全て前田が勝っていたが、勝利数が惜しくも15勝に届かず。勝利数が3つ違うことと、前田が既に沢村賞を受賞していたこともあって、摂津が初受賞となった。

2008年 全項目達成も…

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★岩隈久志 28 5 21 .840 201.2 159 1.87
ダルビッシュ有 25 10 16 .800 200.2 208 1.88

岩隈(楽天)とダルビッシュ(日本ハム)の争い。ダルビッシュは沢村賞の選考基準を全て満たしていたが、5項目で勝った岩隈が初受賞となった。岩隈がMVP&投手3冠を獲得したことや、ダルビッシュが既に沢村賞を受賞していたことも影響したと思われる。

ポイントのまとめ

これらを踏まえると、何となくだが以下のようなポイントが見えてくると思う。

  • 勝利数が多い方が有利
  • タイトルを獲得している方が有利
  • 初受賞の方が有利
  • 勝っている項目が多い方が有利

あくまで感覚的なものだが、複数候補の中で沢村賞受賞者を予想する際の参考にはなるだろう。

W受賞のハードル

最後に沢村賞のW受賞についても触れておきたい。沢村賞の選考において、過去に2回だけ2人の選手が同時受賞したことがある。その時の成績は以下の通り。

1966年 W受賞(1回目)

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
村山実 38 24 24 .727 290.1 207 1.55
堀内恒夫 33 14 16 .889 181 117 1.39

2003年 W受賞(2回目)

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
井川慶 29 8 20 .800 206 179 2.80
斉藤和巳 26 5 20 .870 194 160 2.83

1回目の1966年については、成績だけで言えば村山(阪神)一択だが、堀内(巨人)が高卒1年目のルーキーであったことが大きく加味された結果と言える。

また2回目の2003年については、井川(阪神)と斉藤(福岡)が両リーグで共に20勝&投手3冠を達成するなど、甲乙つけがたいハイレベルな争いであった。

いずれにせよ相当高いレベルで拮抗しないとW受賞は難しく、2011年の田中とダルビッシュがW受賞できなかったことからも、そのハードルの高さが窺える。

2011年 W受賞ならず

選手 登板 完投 勝利 勝率 投球回 奪三振 防御率
★田中将大 27 14 19 .792 226.1 241 1.27
ダルビッシュ有 28 10 18 .750 232 276 1.44

※4項目で田中が勝っており、かつダルビッシュが既に受賞済だったのが影響したか。

まとめ

ここまで歴代受賞者の成績をもとに、沢村賞の選考基準や評価ポイントの重みづけを見てきた。まとめると以下の通り。

選考基準

  • 勝利数(15勝)は重要
  • 他の基準はリーグ屈指であればOK
  • 未達成項目は3つ以内が目安

候補が複数いる時の評価ポイント

  • 勝利数の多さ
  • タイトルの有無
  • 初受賞か否か
  • 勝っている項目の数

W受賞について

  • 20勝&タイトル独占や特別な話題性が必要

あくまで過去の傾向を元にしたものなので、今後の選考の中で全く異なる裁定が下されることもあるだろう。その時はまた記事の内容を更新していきたいと思う。